はじめに

 事業を始めた場合、融資や資金繰り、人手の確保、広告宣伝等々やらねばならないこと目白押しです。そんなときに、煩わしい法律や手続に関する事項については、専門家である司法書士に相談しお任せいただければ、皆さんは本業に集中できます。

 また、当事務所は、登記だけでなく労務を含む企業法務や会計経理等についてもアドバイスを行うことが可能となっております。

事業形態の選択

1 会社か個人事業か

 初めて起業する場合において、会社形態と個人事業形態どちらを選択したらよいのか、気になるところです。そこで、双方のメリット・デメリットを比較してみました。

会社個人事業
開業のための法定手続設立登記が必要手続は特になし 事業開始後に開業届を出せば足りる。
法定手続にかかる費用(株式会社の場合)登録免許税と定款認証で最低でも20万円ほど必要0円
社会的信用度高い低い
所得に係る税金法人税 最高税率23.2%
住民税 標準税率7% 
所得税 最高税率45%
住民税 10%    
事業主に対する報酬役員報酬は原則損金不算入
定期同額給与等の例外あり
利益から控除 
自由に金額設定可
親族に対する給与損金算入可必要経費への算入は限定的 
ただし、青色事業専従者控除
社会保険強制加入5人未満は任意加入
欠損(赤字)の繰越し10年3年

 以上を見た場合、初期投資を極力減らしたい場合やとにかく早く事業を始めたい場合などは、個人事業を選択し、事業が軌道に乗ったのを見計らって、会社形態に移行(法人成り)するのもありでしょう。


2 株式会社か合同会社か

 次に、会社形態を選択したとして、どのような会社形態を選択すれば良いのでしょうか。

 合名会社・合資会社という会社形態も存在しますが、現実的な選択肢を考えた場合、株式会社か合同会社かということになるでしょう。

 合同会社という会社形態については聞きなれない人も多いかもしれません。合同会社は平成18年(2006年)の会社法において、初めて創設された会社形態で、言ってみれば、「ミニ株式会社」といったところです。設立手続の容易さ・設立費用の低廉さから近年は、設立数も増えています。

 簡単にまとめると、株式会社と合同会社の主な違いは以下の表の通りです。

株式会社合同会社
設立時の登録免許税15万円6万円
定款認証の要否必要不要
決算公告の要否必要不要
重要事項の決定株主総会の特別決議
(3分の2以上の多数)
総社員の一致
役員の任期最長で10年任期なし
資金調達方法借入金・社債の他、
株式の発行も可
借入金・社債のみ
上場の可否不可

 合同会社において、注意すべきは、会社の意思決定でしょうか。
 複数人で事業を立ち上げた場合、会社設立時にしっかり制度設計をしていないと、中途で経営方針を巡り社員間で意見対立が起こり、会社の運営そのものがデッドロックに乗り上げるということにもなりかねません。

 また、会社規模の拡張が難しいのも合同会社のデメリットといえるでしょう。

 ただ、合同会社も後日株式会社へ組織変更が可能なので、まずは費用の掛からない合同会社で事業を立ち上げるのも一手かもしれません。

会社の設立まで

 株式会社などの法人に関する一定の事項を社会一般に対して公示し、これにより法人を巡る取引の安全の保護するため、法人の設立は、法務局で登記することが必要不可欠とされています。
 
 以下、手続について説明します。 
 ※株式会社については、発起設立の手続となっております。

1  定款の作成・認証

 定款、つまりは「会社の憲法」を定めた上、発起人(合同会社の場合は社員となろうとする者)全員がこれに署名又は記名捺印をします。
  
 株式会社の場合、さらに設立する会社の管轄所在地にある公証役場の公証人によって上記の定款を認証してもらう必要があります。ここで認証手数料を支払う必要があります。

2 出資の払込み・現物出資

 会社の資本金等として、発起人や代表社員の口座に対して金銭の払込みを行います。

 現在は、最低資本金額の制限というものは存在せず、1円からの出資が可能となっています。
 
 なお、資本金等の全部または一部について現物出資を行う場合、出資した財産の金額が少額(500万円以下)でないかぎり、弁護士等の専門家による証明又は裁判所の選任する検査役の調査を受ける必要があります。

3 登記申請及び会社実印の登録

 会社所在地を管轄する法務局に、登録免許税分の収入印紙等※を添付した上で、必要事項を記載した登記申請書を提出します。郵送又は電子申請も認められております。

  ※資本金の額の0.7%(ただし、株式会社は最低15万円、合同会社は最低6万円から)

 また、設立登記の申請と同時に会社実印に係る印鑑届出書を提出して おくべきでしょう。ただし、令和3年2月以降、電子申請をした場合、会社設立時と同時の印鑑登録は義務ではなくなりました。
  
 不備がなければ、概ね申請から2週間前後で登記が完了します。

事業開始後の手続

1 税金に関する手続

(1) 法人税・所得税等に係る開業届の提出

 会社設立の日から2か月以内に、本店所在地を管轄する税務署に「法人設立届出書」(いわゆる開業届)を提出することが必要となります(個人事業の場合は、事業を開始した日から1ヶ月以内に、住所地を管轄する税務署に「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出)。

 なお、住民税及び事業税の地方税についても、各都道府県税事務所、市区町村税の担当部署に、「法人設立届出書」又は「個人事業開始申告書」を提出することが必要となっております。

 確定申告を行えば、税事務所等には自動的に届けをした扱いとなっております。


(2) 所得税の源泉徴収のための「給与支払事務所等の開設届出書」の提出

 従業員の給与や役員報酬を支払う場合は、所得税の源泉徴収手続のため、税務署へ「給与支払事務所等の開設届出書」の提出も必要となります。

(3) 青色申告承認申出書

 また、義務ではありませんが、税務上の様々な特典を受けるため、「青色申告承認申出書」も併せて税務署へ提出しておいた方が良いでしょう。

2 労働法関係の手続

(1)  適用事業報告書

 1人でも労働者を使用するに至ったときは、所轄労働基準監督署にその旨を遅滞なく報告することが必要です。

(2)  就業規則の作成と提出

 常時10人以上の労働者を使用する場合は、労働基準法で就業規則の作成が義務付けられており、所轄労働基準監督署に遅滞なくこれを届け出ることが必要です。


3 労働保険・社会保険に関する手続

(1)  労働保険

 労災保険と雇用保険の二つに分かれ、労働者を一人でも雇った場合に、労働保険関係が成立します。
 
 労働保険の給付や被保険者の管理については、労災保険は労働基準監督署、雇用保険は公共職業安定所(ハローワーク)がそれぞれ担当することになっていますが、保険料の徴収については、原則として、労働基準監督署において労災保険・雇用保険ともに一元的に徴収されることとなっています。このため、労働保険関係が成立した場合は、労働基準監督署にその旨を報告する必要があります。

 労働保険料は、毎年1回以上定期に支払う必要があります。

(2)  社会保険

 主に健康保険と厚生年金保険とがあり、会社等法人及び一定の業種で5人以上の労働者を雇っている個人事業所においては、強制的に制度が適用され、雇用主は保険料の半額を支払う必要があります。

 なお、役員報酬に対しても保険料が生じる点が(1)とは、異なるところです。

 以下、労働保険・社会保険に関する書類のうち代表的なものの提出期限、提出先をまとめてみました。

    区分    書類   提出期限   提出先
労働保険料に関するもの労働保険関係成立届事業を開始した日から10日以内労働基準監督署
概算労働保険料申告書事業を開始した日から50日以内
雇用保険に関するもの雇用保険適用事業所設置届適用事業に該当した日の翌日から10日以内公共職業安定所
雇用保険被保険者資格取得届事実※があった日の翌月の10日まで
健康保険・厚生年金保険に関するもの健康保険・厚生年金保険新規適用届事実※があった日から5日以内年金事務所
健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届事実※があった日から5日以内

  ※通常は、保険の適用対象となる従業員等を雇った場合がこれにあたります。

 労働保険・社会保険は、提出書類も多い上、提出期限・提出先も多岐に渡るなど複雑です。したがって、労働保険・社会保険に関しては、社会保険労務士に手続を依頼する方が良いかもしれません。


4 主務官庁の許認可に関する手続

 特定の業種については、許認可に適合した事業目的を定款に記載せねばならず、また、登記をしても、所轄官庁から許認可を得ない限り、営業を行うことができない場合があります。

 以下、一例を示します。

業種許認可の種別申請先
不動産業免許都道府県
建設業許可都道府県
酒類販売業免許税務署
中古物品販売業許可警察署
飲食業許可保健所
旅館業許可保健所
タクシー業許可運輸局
人材派遣業許可労働局
介護事業許可都道府県

 また、銀行業や債権管理回収業等の特殊な業種については、そもそも許認可を受けない限り、設立登記が通らないことになっております。

 なお、許認可の申請に関しましては、行政書士の専権事項となっております。