はじめに

 我が国が超高齢社会を迎え、離れて暮らす高齢の親御さん、或いは「おひとりさま」としてご自身が認知症になったり判断能力が衰えた時が不安といった方も多いでしょう。また、障害を持つ子供を抱える親御さんにおいては、将来自分が亡くなった時の子供の面倒を誰か見ていくのか、という心配していらっしゃるかと思われます。

 こうした人々の財産を守り、生活を安定させるための最初の選択肢となるが成年後見制度です。

 そして、成年後見制度を補完・代替するものとして、最近注目されているのが、民事信託と呼ばれる制度です。

 当事務所では、見守り契約、成年後見の申立て、成年後見人としての財産管理、遺言書作成、民事信託契約の組成等を業務として取り扱っており、依頼者それぞれのニーズに見合ったサービスを提案しております。

成年後見制度

 成年後見制度は、認知症、知的障害、精神障害などが原因で判断能力が低下した方のための制度です。成年後見人等の保護者を就けることにより、保護者に施設入所契約や医療契約の締結などの法的手続を代行させ、金銭等の財産管理を行わせることが可能となります。

 大きく法定後見と任意後見に分かれております。

1 法定後見

 申立てにより家庭裁判所が後見等開始の審判をするとともに選任された成年後見人等が法律で定められた範囲内で本人のために権限を行使しうる制度です。

 本人の判断能力に応じて、成年後見、保佐、補助の三段階に区分されます。


2 任意後見

 任意後見は、契約により本人が将来の後見人の候補者をあらかじめ選任しておく制度で、権限の内容も契約によって定めることができます。契約は公正証書によって行うことが必須となっています。

 本人が事理弁識能力が不十分になったときに、親族等の申立てにより、任意後見監督人が家庭裁判所により選任された時点で契約の効力を生じます。

障害者等のための福祉信託

 信託とは、委託者(財産を保有する人)が、受託者(信託銀行・家族等)との間で信託契約を結ぶことで、受益者のために受託者に財産管理を委ねることができる制度です。信託財産は受託者に法的に移転し、受託者は信託された財産を受益者のために管理や移転、処分を行うことになります。
 
 大きく商事信託と民事信託に分かれます。


1 商事信託

  受託者が営業として行う信託です。受託者は、営業として信託業務を行うため内閣総理大臣の免許又は登録を受けていることが必要となっています。信託銀行等が受託者となるのが一般的です。

(1) 生命保険信託
   障害者等の親族が被保険者となり、生命保険金を信託財産として、受益者である障害者等に対して、必要な財産の交付を行う信託のことです。

(2) 特定贈与信託
   障害者の方(特定障害者)の生活の安定を目的に、親族の財産を信託銀行等に信託して、障害者の生活費・医療費として定期的に交付するというものです。

   3000万円(特別障害者の場合は6000万円)の贈与税の非課税枠が存在するという利点があります。


2 民事信託

  受益者の家族や知人が受託者として、受益者のために財産管理を行う制度です。
  家族が受託者となる場合を特に家族信託と呼んだりします。

 
  成年後見制度との違い

成年後見民事信託
財産管理の法的性質代理権利移転
受託者名義で権利行使
財産管理の態様消極・保守的
積極的な資産運用は不可
柔軟
積極的な資産運用も可
身上保護義務ありなし
財産管理者の監督家庭裁判所受益者

 このように民事信託は、裁判所等の公的な関与なしに、受益者のため柔軟な財産管理ができるのが大きな特徴です。

 しかし、民事信託も万能な制度ではなく、遺留分など相続法制の制約を回避できるわけではなく、また、信託契約書の組成が難しい等のデメリットがあることを注意しておくべきでしょう。